AIと一体化した自己像は、創造の自信と依存の両方を生む

AIと一体化した自己像は、創造の自信と依存の両方を生む (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

The more deeply embedded in AI, the more creative you become? Investigating the pathways linking AI identity and creative deviance

Xinru Xu, Changbin Wang, Chao Liu, Giang Huong Nguyen / Journal of Managerial Psychology (2026年) / DOI: 10.1108/jmp-05-2025-0454

邦題(編集部訳): AIに深く埋め込まれるほど創造的になるのか──AIアイデンティティと創造的逸脱をつなぐ経路の検討

結論

「AIを使いこなす自分」という自己像は、創造的自己効力感を高めて水面下の挑戦を後押しする一方で、AIへの依存を強めてその挑戦を抑えるという、相反する二つの働きを同時に持っていました。抑制の側は、失敗や損失を避けたい志向が強い人でより強く出ます。人事・研修担当にとっては、AI活用の推進と依存の抑制をセットで設計する必要がある、という示唆になります。

職場にAIが入り込み、働き手が「AIを使いこなす自分」という自己像を持つようになったとき、創造性はどうなるのでしょうか。本研究は、その自己像が創造的自己効力感を通じて創造的逸脱を促す一方、AI依存を通じてそれを抑えるという、逆向きの二つの経路があることを示しました。抑え込む側の経路は、損失や失敗を避けようとする傾向が強い人ほどはっきり現れています。

この論文の要点

  • AIとの一体感は自信を通じて挑戦を促し、依存を通じて挑戦を抑える
  • 抑制の経路は、失敗回避を重んじる予防焦点の人でより強く現れた
  • 獲得志向の促進焦点には、正の経路を強める効果は確認されなかった

研究の問い

AIが日々の業務に組み込まれるにつれて、働き手は「AIを使いこなす自分」という自己像を持つようになります。本研究はこれをAIアイデンティティと呼び、それが創造的逸脱、つまり上司に却下されたアイデアをひそかに追い続けるような行動とどう結びつくのかを問いました。AIとの結びつきが強まることは、創意工夫を後押しするのでしょうか。それとも判断をAIに委ねさせ、挑戦する気持ちを鈍らせるのでしょうか。これまでAI導入の効果は業務効率の面から語られることが多く、働き手の自己像という心理面から創造性を捉える視点は手薄でした。著者らは役割理論と認知・感情システム理論を組み合わせ、この問いに答えようとしています。

調べ方

調査は、時点を分けて回答を集める多時点設計で行われました。さまざまな業種で働く従業員379名から質問票データを取得し、SPSSを用いて二つの経路を想定した媒介モデルを検証しています。具体的には、AIアイデンティティが創造的自己効力感を通じて創造的逸脱を高める経路と、AI依存を通じてそれを抑える経路を同時に置き、制御焦点が両経路の強さを左右する条件として働くかを確かめました。加えて事後のインタビューを行い、数量的な結果を補う質的な材料も集めています。

わかったこと

分析からは、AIアイデンティティが創造的逸脱に対して、互いに逆を向いた二つの働きかけを同時に持つことが示されました。一方では、AIとの結びつきが創造的自己効力感、つまり「自分は新しいものを生み出せる」という手応えを高め、それが創造的逸脱を押し上げます。他方では、AI依存を強め、それが創造的逸脱を抑え込みます。

さらに、この抑制側の経路は、予防焦点が強い人ほど顕著でした。失敗や損失を避けることに意識が向く人は、AIに頼る度合いが高まったとき、承認されていないアイデアを自分の判断で進めることをいっそう控えるようです。一方、獲得や成長に目が向く促進焦点については、創造的自己効力感を経由する正の経路を強める働きは確認されませんでした。AI活用の影響は一律ではなく、自信の源になるか依存の入口になるかで結果が分かれ、その分かれ方は個人の志向によっても違う、ということです。

人事・研修担当への示唆

  • AIツール研修では操作説明だけでなく、自分の発案が形になった体験を設計し、創造的自己効力感を育てる時間を組み込みましょう
  • 1on1に「AIの出力をそのまま採用していないか」を問う項目を置き、AI依存の兆しを本人と一緒に点検しましょう
  • 予防焦点が強いメンバーには、失敗が評価上の不利にならない実験枠を明示し、挑戦のハードルを下げる支援を優先しましょう

読むときの注意点

本研究は質問票による自己報告が中心で、時点を分けた設計であっても因果関係を断定できるものではありません。示されたのはあくまで経路の関連です。また、創造的逸脱は組織や職場によって望ましさの評価が大きく変わる行動であり、業種や職種ごとの違いについて抄録では明記されていません。自社に当てはめる際は文脈の差を踏まえてください。

キーワード解説

AIアイデンティティ
AIアイデンティティとは、AIを使いこなす存在として自分自身を捉える自己像のことです。技能の有無だけでなく、仕事上の役割感覚に関わります。
創造的逸脱
創造的逸脱とは、上司や組織に却下されたアイデアを、それでも価値があると信じて水面下で追い続ける行動のことです。
創造的自己効力感
創造的自己効力感とは、自分は新しいアイデアを生み出し形にできる、という本人の手応えや自信のことです。挑戦の量に影響します。
AI依存
AI依存とは、判断や作業をAIに委ねる度合いが過度に高まり、自分で考え抜く場面が減っていく状態のことです。
制御焦点
制御焦点とは、人が目標に向かうときの構えの違いを指す考え方で、獲得を重視する向きと損失回避を重視する向きに分かれます。
予防焦点
予防焦点とは、失敗や損失を避け、安全や義務を守ることを重んじる目標志向のことです。慎重な行動選択につながります。
促進焦点
促進焦点とは、成長や達成といった望ましい結果を得ることを重んじる目標志向のことです。挑戦的な行動と結びつきやすいとされます。

よくある質問

Q
AIを使いこなす自覚は創造性を高めますか?
A
高める面と抑える面の両方がありました。AIとの一体感は「自分は生み出せる」という自信を通じて挑戦を後押ししますが、同時にAIへの依存を強め、その依存が挑戦を抑え込みます。差し引きは、依存をどれだけ抑えられるかで変わります。
Q
創造的逸脱とは何ですか?
A
組織に却下されたアイデアを、価値があると信じて水面下で追い続ける行動を指します。ルールから外れる面がある一方、革新の芽になることもあり、本研究ではAIとの関わり方がこの行動を左右することが示されました。
Q
AIへの依存を防ぐには何をすればよいですか?
A
本研究は、依存を抑えることと創造の自信を育てることの両方が必要だと示しています。AIの出力を一度自分の判断で吟味する場面を業務の中に意図的に残し、その振り返りを面談や研修に組み込むことが手がかりになります。

原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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