人事研究に定着したPLS-SEM、使い方には改善の余地

人事研究に定着したPLS-SEM、使い方には改善の余地 (人材論文百科の論文紹介)

紹介する論文

Partial least squares structural equation modeling in HRM research

Christian M. Ringle, Marko Sarstedt, Rebecca Mitchell, Siegfried P. Gudergan / The International Journal of Human Resource Management (2018年) / DOI: 10.1080/09585192.2017.1416655

邦題(編集部訳): HRM研究における部分的最小二乗法による構造方程式モデリング

結論

主要誌に30年間で掲載された77本を点検した結果、PLS-SEMはHRM研究に定着した分析手法である一方、現在の手法ガイドラインに照らすと、適用や報告の面で改善の余地がある領域が複数見つかりました。分析結果を受け取る側にとっては、示された数字そのものだけでなく、その数字がどう作られたのかを確かめる姿勢が欠かせない、ということです。

エンゲージメントのように直接は測れない概念を扱う人事研究では、PLS-SEMという分析手法が広く使われています。本研究は、主要誌に30年間で掲載された77本のHRM研究を集め、その使われ方を最新のガイドラインと突き合わせました。手法は分野に定着している一方で、適用と報告の両面に改善すべき点が残っていることが示されています。

この論文の要点

  • PLS-SEMはHRM研究で頻繁に使われる主要な分析手法として定着しています
  • 主要誌に30年間で載った77本を、現在の手法ガイドラインと照合しました
  • 適用と報告に改善余地のある領域が複数示され、今後の指針が提案されました

研究の問い

人事の研究では、満足度やコミットメントのように直接は測れない概念を扱うことが多く、PLS-SEMという分析手法が広く使われるようになりました。これは、複数の質問項目から潜在変数を組み立て、概念どうしの関係をまとめて検証する手法です。多くの分野では、主要な手法が正しく使われているかを定期的に点検し、研究と出版の質を保つ取り組みが行われています。しかしHRM分野では、PLS-SEMの使われ方についてそうした検証がこれまで行われてきませんでした。手法の使い方に偏りがあれば、そこから導かれる知見の信頼性も揺らぎます。著者らはこの空白を埋めるため、批判的な見直しに取り組みました。

調べ方

著者らは、主要な学術誌に30年間にわたって掲載されたHRM研究のうち、PLS-SEMを用いた77本を集めました。そのうえで、各研究が手法をどのように適用し、何をどこまで報告しているかを読み取り、現時点で標準とされる手法ガイドラインと一つずつ突き合わせています。新しくデータを集めて仮説を検証するのではなく、既存研究の分析手続きと報告内容そのものを対象にした、レビュー型の研究です。

わかったこと

まず、PLS-SEMはHRM研究において頻繁に用いられる主要な多変量解析の手法として定着していることが確認されました。長い期間にわたり、主要誌に載る研究で継続的に使われてきています。

一方で、集められた研究の実際の使い方を、現時点で標準とされるガイドラインと照らし合わせると、改善の余地がある領域がいくつも浮かび上がりました。著者らはこの結果をもとに、今後PLS-SEMをHRMや近接分野で用いる際の指針を示しています。

ただし、どの手続きにどれだけのずれがあったかという内訳や、問題のあった研究の割合は、抄録では明記されていません。そのため「手法が誤って使われていた比率」を読み取ることはできず、適用と報告の質に点検すべき点が残っている、という水準の指摘として受け取るのが妥当です。

人事・研修担当への示唆

  • サーベイ分析を外部に委託する際は、手法の選択理由と測定モデル妥当性をどう示すかを、成果物の要件にあらかじめ含めましょう
  • PLS-SEMを使った論文や提案書は、結論の大きさより先に、報告基準を満たしているかを確認する順序で読みましょう
  • 自社で行った分析も、使った手法と手順を後から第三者が追える形で残し、再現性を確保しておきましょう

読むときの注意点

本研究は主要誌に掲載された研究のレビューであり、そこに含まれない論文や実務の分析にそのまま当てはまるとは限りません。また、どの手続きにどの程度の問題があったかの内訳は抄録では明記されておらず、照合の基準となるガイドライン自体も時代とともに更新されます。手法の是非ではなく、使い方の丁寧さを問う研究として読むのが適切です。

キーワード解説

PLS-SEM
PLS-SEMとは、直接は測れない概念どうしの関係を、複数の質問項目から組み立てて分析する統計手法のことです。
潜在変数
潜在変数とは、満足度ややる気のように直接は測定できず、複数の質問項目を通じて間接的に捉える概念のことです。
測定モデル
測定モデルとは、ある概念をどの質問項目で測るのかという対応関係を定めた、分析の設計図にあたる部分のことです。
妥当性
妥当性とは、その測定が本当に測りたい概念を捉えられているかどうかの度合いのことです。
多変量解析
多変量解析とは、複数の変数を同時に扱い、それらの関係をまとめて分析する統計手法の総称のことです。
報告基準
報告基準とは、分析の手順や結果を示す際に、最低限どこまで書くべきかを定めた取り決めのことです。
再現性
再現性とは、同じ手順をたどれば別の人でも同じ結果にたどり着けるという、研究の信頼性を支える性質のことです。

よくある質問

Q
PLS-SEMとはどんな分析手法ですか?
A
直接は測れない概念を複数の質問項目から組み立て、概念どうしの関係をまとめて検証する統計手法です。人事研究では満足度やコミットメントなどを扱う際に用いられ、本研究によればHRM分野で頻繁に使われる主要な手法として定着しています。
Q
なぜ分析手法の使われ方を点検する必要があるのですか?
A
多くの分野では主要な手法の使われ方を定期的に見直し、研究の厳密さを保っています。しかしHRM分野ではPLS-SEMについてその検証が行われてきませんでした。使い方に問題があれば結論の信頼性にも影響するため、著者らはこの空白を埋める必要があると述べています。
Q
実務ではこの論文をどう活かせますか?
A
社内外の分析レポートを読むときに、どの手法をなぜ選んだのか、測定の妥当性や結果をどこまで報告しているのかを確かめる視点が得られます。数字の大きさだけで判断せず、その数字の作られ方を問う習慣づけに役立ちます。

原論文のライセンス: 記載なし。本記事は原論文の内容を人材論文百科の編集部が独自に読み解いてまとめたもので、抄録や本文の翻訳・転載ではありません。図表は掲載していません。正確な内容は冒頭のDOIから原典をご確認ください。

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